979798 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Selfishly

Selfishly

~麗しの金獣~ 金猫の恩返し 番外編4


~ 麗しの金獣 4 ~
        ―― 金猫の恩返し・番外編 ――




「はぁ・・・・・」
穏かな日中、特に何をするでもなくリビングのソファーに座っていた
エドワードは、物思いの深いため息を吐いていた。

ロイから「1週間でカタが付く」からと、その間外出は控えて欲しいと
言われ、特に急いでする事もなく、朝にロイを送り出しその後家事をやって、
それでも空いた時間は、ロイの膨大な書庫の本を読んだり、
新しい構築式を考えてみたりして時間を過ごして、夕食の準備をする。
必要な物はロイが買ってきてくれる日もあれば、遅くなる時には
部下の誰かが届けてくれるから、何か不自由をしているかという事もない――。
無いのだが・・・・・。

「ふぅ――・・・」

また大きなため息を落とす。
その理由は「何もない」の一言に尽きるからなのだった・・・。


 *****

「エドワード、後3日もすれば自由に動けるようになる。
 それまで退屈だろうが、辛抱してくれ」

昨夜の夕食の時に、ロイはすまなそうにエドワードにそう告げてきた。
「やっ・・、そんなに気にしなくていいぜ?
 皆、俺らに為に頑張ってくれてるのに―― 何か俺だけのんびりしてて
 悪い気がしてるくらいなのにさ・・・」
パタパタと手の平を顔の前で振って、ロイにそう告げる。
今、ロイとロイの直属の部下達は、エドワードの資格返上とこれまでの経歴や
報告書の削除や廃棄、そしてアルフォンスの戸籍の修正等、事細かに行ってくれているのだ。
勿論、正式文書の偽造や改竄を勝手に行うのは犯罪だ。
だからギリギリのラインで、不要事項として削除したり、不必要書類として廃棄しているようだ。
エドワードが軍属でいた年月は長くはないが、短すぎると言うほどでもない。
特に華々しい活躍をしていただけあって、残されている書面や資料も結構な数になる。
それをロイ達は、通常業務と平行して行ってくれていると聞いた時――、
エドワードは思わず涙が零れそうになるほどの感動と、感謝の念を抱いた。

そんなロイ達を思えば、高だか1週間の日数など何ほどでもない。

そんなエドワードの思いを察してか、ロイは優しく微笑むと。
「君が気に病む事はないさ。―― 皆、好きでしてることだ」
そう告げるロイの声には、言葉と反比例して部下たちへの感謝の気持ちが籠められている。
「・・・ん、ありがとうな」
今のエドワードに出来る事など限られている。だからここは素直に頼って、感謝の気持ちを
忘れずにいることだ。
以前、ハボックにも頼まれていた手料理を作っては、ロイに司令部の皆に
差し入れして貰ったり、来たときに手渡したりして、微少ではあるけど感謝の気持ちを
返してもいた。

「そうだ」
エドワードから食後のコーヒーを受け取りながら、ロイはふと思いついたと
いうように、エドワードに話しかけてくる。
「なに?」
ロイの座るソファーの横に腰を掛けて、顔を向ける。
「資格の返上が終わった連絡が来たら、買い物に行こう」
「買い物ぉ?」
不思議そうな表情で聞き返すエドワードに、ロイは「ああ」と返しながら頷く。
「君もだいぶんと背が伸びただろ? 今の部屋のベッドでは窮屈なんじゃないかい?」
そう言われて、エドワードはそういえばと思い浮かべる。
以前、ロイが用意してくれた部屋にあるベッドは、確かに今のエドワードには
少々、狭い感はある。けど、足を伸ばして寝れないほどでもないので、
特に気にしていたわけでもない。
そうエドワードが告げると、ロイは暫く考えてから。
「いや――、やはり買い換えよう」
と、エドワードに告げてきたのだった・・・・・・。


 *****

物思いに沈み込んでいると、玄関で鳴らされている呼び鈴の音で
意識を戻される。
ちらりと時計を見ると、まだ夕刻には早い時間だ。
という事は・・・。
エドワードは足早に玄関へと出向くと、覗き穴から訪問者を確認して
扉を開ける。
「ハボック大尉、いつもごめんな」
そう言って扉を開けてやると、手に買い物袋を抱えたハボックが入って来る。
「なぁーに水臭いこと言ってんだよ。
 ほれ、これ食料と頼まれてた物な」
何人分あるのかと思う食材が入った袋を受け取ろうとエドワードが手を差し出すと、
持っててやるよと気の良い返事をして、ハボックが運び場所を聞いてくる。
「あっ、ごめん。じゃあ、悪いけどキッチンに運んで貰っていいかな」
そう返事を返しながら、先導するように先を歩き出す。
物珍しそうに家の中をキョロキョロ見回しながら着いてくるハボックに
エドワードは、「ここでいいよ」とキッチンのテーブルを示す。
「おう。―― よいしょっと」
結構な重さがあったのか、ドサリとごつい音をさせながら袋が置かれる。
「今日、ロ・・、准将、遅くなるのか?」
思わずロイと言ってしまいそうになったのを慌てて言い直して聞いてみる。
「ん? やっ、そうでもないんじゃないか?
 なんか昼からの定例会に、どっかのお偉いさんが遅れてきたとかで
 時間がずれ込んでるだけだから、終われば飛んで返ってくるさ」
手持ち無沙汰になった途端に、胸ポケットにやった手を所在無げに動かしている
ハボックに、エドワードはくすりと笑って告げてやる。
「いいぜ、一服したら? 俺はあんま気にならない方だからさ」
そう言って来客用の灰皿を出してやれば、ハボックは嬉しそうな表情で
早速、タバコを取り出した。
「すまないな。今日はお偉いさんがウロウロしてるだろ?
 司令部でも落ち着いて吸えるとこがなくてさ」
そう断りを言いながら、美味しそうに紫煙を吸い込む。
「だろうな。まぁ、腰かけててくれよ、お茶でも淹れるからさ」
「そっかぁ? んじゃ、ちょっとだけ一休みさせて貰いますか」
どかりと腰を落ち着ける頃には、早くも2本目のタバコに火を点けている。
ハボックがタバコを吸っている前では、エドワードが手馴れた様子で
コーヒーを落とし始めている。
そんな様子を見ていると、ロイと付き合っていると言う話も
本当だったんだなぁとしみじみ思う。
「ん? どうしたんだよ?」
テーブルにひじを付いて組んだ手の上に顎を乗せた姿勢で、エドワードを眺めている
彼にそう問いかけてみる。
「・・やぁ、―― なんだ・・・。本当に准将と付き合ってんだな・・とさ」
しみじみとそんな事を呟かれて、エドワードは薄っすらと頬を赤らめる。
自分たち―― エドとロイの事が、薄々はばれているだろう事はエドワードも感じていた。
が、ここ最近まで知らなかったと先日エドワードに詰め寄ってきたハボックには、
ロイもエドワードも、はっきりと肯定したのだ。別に隠していたわけではないので、
ばれたならそれは構わないと、ロイがエドワードに言ったので、エドワードも
妙な隠し事をしないようにした。
それでも、―― 皆の反応が気にならないわけではない。
「――― やっぱ・・・、気味悪いかな?」
幾分、声のトーンを落としてそう尋ねてみると。
「ん? いや、全~然。そう言われてみれば、その方がしっくりくると言うか、
 納得できたと言うか」
嫌悪など微塵も感じさせないハボックの返答に、エドワードは知らずに混めていた
肩の力を抜く。
「悔しいのは、なんで俺だけ気づけなかったかって言う、そっちの方でさ。
 もう俺なんて、司令部内では『鈍感男』ってレッテル貼られて、もぉー!」
悔しそうな表情で、ガシガシと頭をかくハボックに、思わず笑みが漏れる。
「それにさ! 大将、すんげえ綺麗になってるから、美男美女・・じゃないけど、
 凄くお似合いだと、まぁ俺は思うわけ」
素直な賛辞には、エドワードも照れが出てしまう。
「准将には、さっさと落ち着いてもらった方が、俺ら男どもは安心だから、
 エドも手綱緩めず頑張ってくれよ!」
懇願交じりのハボックの言葉に、エドワードは思わず浮かない表情で俯いてしまう。
「ん? どした?」
様子の変わったエドワードに気づいたハボックが、気遣うように声をかけてくれる。
エドワードは何もない・・・と首を横に振ろうとして、じっとハボックの方を見る。

―― ハボックはホークアイ少佐に次いで、ロイの元で長く傍で働いている。
まだロイと付き合い始めていない時には、ロイの恋沙汰を面白おかしく
聞かせてくれていたのは彼だ。送迎と護衛を兼ねている彼は、ある意味誰よりも
ロイのプライベートの行動を把握している言えるだろう。――

言いあぐねて、逡巡しているエドワードにハボックはいつも通りの
兄貴のような笑みで、じっとエドワードを見つめてくれている。
彼は―― 確かに色恋に関しては、多少・・・鈍感な処もあるが、
実際は機微に敏感で、下の者からも頼られる存在なのだ。
察する方面が、やや偏っているのだろう。

「――― 俺・・・・」
長い沈黙の後に、エドワードが話し出そうとして止まってしまっても、
ハボックは急かす事無く、「ん?」と言っただけで聞き出そうとも
問い詰めようともしない。
そんなハボックだからこそ、エドワードも話す決心が付いたのだろう。

「・・・俺・・・、魅力・・ないかな?」
自信無さ気に囁くように呟かれた言葉に、ハボックは「はっ?」と
口を開けたまま、エドワードの顔を凝視している。

――――― 数分、エドワードを注視したまま固まっているハボックと、
居た堪れずに俯くエドワード。
そんな膠着したシーンは、ハボックの大声で破られた。
「あっちぃーーーー!!」
慌てて咥えてたタバコを放り出して慌てる彼に、エドワードも顔を上げて
大慌てでタオルを取って水に浸して手渡そうとする。
わたわた・あちあちと騒いだ後は、二人ともほっーと息を吐いて一段落して
腰を落ち着ける。
騒いだせいか空気も軽くなり、ハボックの驚きも波を越したようだ。
「エド・・・何で、そんな風に思うんだ?」
一瞬の逡巡を振り切って、思い切ってそう尋ねてみる。
エドワードも何かが吹っ切れたのか、ポツポツと話をし始める。

自分たち・・・ロイとエドワードは付き合ってはいるが、
実は―― 肉体関係という行為は、キス止まりのままなこと。
戻ってから一緒に暮らしてはいても、特に変化も無く
夜は挨拶のお休みなさいのキスをすれば、別々の部屋で眠る事。
そして昨夜には、エドワードに新しいベッドを買おうと言い出したこと。

聞きたくても聞けなかった。
言いたくても言えなかった事が、ポロポロと零れ落ちていくのを止めれなくなる。

「普通・・・、っても俺、恋人なんて持ったのはロイが初めてだから
 もしかしたら俺が間違ってるのかも知れないけど。
 い・・・一緒に暮らしててさ、そのぉ――――― ずっと別に寝るものなのかな」

ハボックはエドワードの告白を聞いていて、最初は小さく開けた口が
今ではあんぐりと大きく開きっぱなしだ。
「もしかしたら・・・俺が・・魅力無いから、ロイはそんな気にはならないのかも・・・。
 ――― それか・・・・・、本当は・・・嫌なのかな、俺と寝るのも・・」
しゅんと項垂れて語るエドワードを見つめていて、ハボックはふつふつと湧いてくる
怒りが溜まっていくのを感じる。
 
(あんのぉ人~、なーに馬鹿なことやってんだぁー!)
そんなことを、今は居ない相手に対して胸の中で罵声を吐き出す。
エドワードはハボックの目から見ても、男性と言う点を除けば、
文句なしの美人さんだ。性格も、昔から知っているハボックには
全く問題ない・・・どころか、健気で純粋で思いやり溢れてと
美点の方がはるかに多い。
・・・確かに、以前は子供すぎて、とてもじゃないがそういう対象には見る事も
思い浮かべる事も出来なかったが、一年会わない間に、すっかり綺麗で
魅力溢れる青年にと成長している。
今の彼なら、どんな相手も落ちないなんてことは無いだろう。
まぁ確かに、男性という点では恋愛の対象として無理な人間は別だ。
が・・・ロイはそれを十分判った上で付き合ってきたのだ、
なら、そんな人間が行動に出ないという理由は1つ。
―― そんなやせ我慢、する必要ないだろうに ――

「エドよぉ~、絶対にそれは違うって」
はぁーと大きな嘆息を吐きながら、そうハボックが言ってやると
縋るような瞳でエドワードが見つめてくる。
―― うっ、やばい・・・俺の平常心が・・・――
その気の無いハボックでさえ、今のエドワードに縋るような目で見られると
思わずくらくらしてしまう。
コホンと咳払いして、とにかく平常心を保たせる。
ここで万が一、僅かな、そりゃもう微々たる量でも邪な感情など生んだ日には、
――― 明日が俺の葬式だ ―――

「お前の不安は尤もだ。―― が、俺が断言する!
 お前に魅力が無いとかは、絶対にそんな事はない!!」

きっぱり言い切ってくれるハボックに、エドワードはほんの少しだけ
安心したような表情を浮かべる。
そして、ハボックは話を続けていく。
「お前は、間違いなく、そりゃもう物凄く魅力的だ! もっと自信を持て!
 で、准将に関しては―― まぁ、ただのやせ我慢だな、きっと」
そんなハボックの言葉に、エドワードは目をパチクリと瞬かせる。
「多分・・・っても、これは俺の考察だから、全部がそうと言えないと
 思うが・・・。准将には、まだ―― お前が以前の子供のままだと
 思ってる処があるんじゃないか・・と」
「子供の・・まま?」
「ん―――、なんて言うのかな・・・、あんま上手く言えないんだけどさ、
 お前と会えなくなる前って、まだ―― はっきり言って子供だったと思うんだ」
ハボックにそう言われて、エドワードは別れる前・・・互いが告白し合った夜を思い出す。

・・・あの時は―― 口付けされて・・・覆いかぶさってこられた時、
 エドワードは嫌悪ではなく、純粋な驚きと恐怖でロイを跳ね除けた。
 初めてだったのも有るが、エドワードにはあの時のロイが怖かったのだ。
 いきなりの深い口付けで息苦しくて、止めて欲しいと抵抗しても
 ロイは構わず次へと進めようとした。
 そんなロイが、まるで知らない人間のように思えて―― エドワードは、
 恐慌して入り込んでいたロイの舌を噛んでしまったのだった。・・・・

思い当たる処があって、はっと表情を変えるエドワードにハボックは
更に言葉を掛けてやる。
「だから、准将にとっては・・・多分、傷つけてはいけない存在って認識が
 残ってるんじゃないかなぁーと、俺はそう思うわけ」
「・・・・・・」
何も言葉を返さないエドワードを気遣うように、ハボックは優しく言ってやる。
「なぁ・・・、本当の所は准将に自分でちゃんと聞いたほうが良いんじゃないか?
 怖いと思う気持ちは判るけど、エド――― 恐れてばかりじゃ、恋愛って出来ないぜ?」
ハボックのその言葉に、俯いていたエドワードは視線を上げる。
「恋愛って、一人じゃ出来ないんだよ。でもって、良い事ばかりでもない。
 でも、相手が好きならぶつかるしかないだろ?
 受身ばかりじゃなくて、時には自分から相手にぶつかったり、チャンスやったりする事も
 必要だぜ?

 ・・・・・まぁ、玉砕ばかりしてる俺が言っても、あんま信憑性無いかもだけどな」

自嘲の笑みを薄っすらと口元に浮かべてそう語るハボックに、エドワードは大きく
首を横に振って返事を示す。
「そんな・・・ことない。――― ありが・・とう。
 俺・・・俺・・・。凄く不安だったんだ・・な。
 一年も居なくてさ、同性で、歳も離れてて。
 昔も迷惑ばっか皆に掛けてて・・・今も、やっぱ掛けどおしでさ・・・。
 こんな迷惑で手間ばかりかける相手なんか、面倒になったんじゃないかって・・」
机の上に視線を落としてそう語るエドワードの机の上には、ポタポタと水滴が
溜まっていく。
ハボックは見るに見かねて、立ち上がってエドワードの傍へと近付くと、
大丈夫だと言うように肩を抱いて、背中をさすってやろうと手を回そうとした、その時――。


「――― 何をしている」

冷たく凍りついた様な第3者の声が、室内に居る二人の上に落ちてきた。





  ↓面白かったら、ポチッとな。
拍手



© Rakuten Group, Inc.